このページの要点
- 勧誘は、全面的に禁じる選択がある。認める場合も、場所・時間・方法・対象を限り、主催者の名称を使わせない条件を付ける。
- 会場での契約は訪問販売に、電話での勧誘は電話勧誘販売に当たり得る。氏名等の明示、再勧誘の禁止、書面の交付、8日間の撤回等が関わる。
- 個人の参加者が相手のときは、消費者契約法4条による取消し(不実告知、断定的判断、退去妨害など)も確認する。
- 紹介料・手数料、苦情と返金の窓口、求償、講師の許認可の表明を契約書に書き、販売の主体は講師であることを明確にする。
結論:勧誘を「禁じる」「条件付きで認める」「クレームの帰属を決める」の三つに分けて、契約書に書く
セミナーや講演の終了後に、講師が自分のサービスや商品を紹介したり、個別の相談の場に誘ったりすることがあります。主催者にとっては、講師に登壇してもらう見返りとして自然なこともあれば、参加者から苦情が出て信用に傷がつくきっかけにもなります。主催者と講師の間でこの点を決めていないと、「講師が会場で勧誘して契約を取ったのは、主催者の許可があったからではないか」「参加者が返金を求めてきたが、誰が応じるのか」といった問題が、開催後に初めて表面化します。
このページでは、勧誘を促す書き方ではなく、主催者と講師の間の契約書で、勧誘を許すか、許すとすればどんな条件を付けるか、苦情や返金を誰が負うかを決めておくための整理を行います。結論は次の四つです。第一に、まず勧誘を全面的に禁じる選択があること。第二に、認める場合は、場所・時間・方法・対象を限り、主催者の名義を使わせない条件を付けること。第三に、勧誘の態様によっては、特定商取引法の訪問販売や電話勧誘販売に当たり得ること。第四に、紹介料や手数料の定め、苦情と返金の窓口、主催者の名称の使用に関する定めを、契約書の条文にしておくことです。
なお、このページが扱うのは、主催者と講師の間の約束です。講師個人が参加者に対して行う勧誘に、特定商取引法がどう当てはまるかの詳しい検討は、販売する側の契約の中身によって変わります。ここでは、主催者として契約書にどう備えるかを軸にします。名簿を勧誘に使うことの是非は受講者名簿・アンケート・名刺の扱いのページで、告知の表示は告知ページ・チラシで講師の経歴や効果を書くときのページで扱っています。
セミナー後の勧誘の三つの形と、主催者の関わり
勧誘といっても、実際の形は様々です。主催者が関与の度合いを判断しやすいように、場面を三つに分けて整理します。
セミナー後の勧誘の三つの形(一般的な整理)
| 場面 | よくある形 | 主催者が気をつける点 | 関係しうる主な法律 |
|---|---|---|---|
| 会場内での紹介・勧誘 | 講演の最後に自分のサービスを案内する。会場で申込書を配る、その場で契約する。 | 会場の使用条件(販売・勧誘の可否)、時間枠、参加者が退席しやすい運営か。 | 特定商取引法(訪問販売に当たる場合)、消費者契約法4条 |
| 後日の対面での個別相談 | セミナー後に別の日に面談を設定し、契約を結ぶ。 | 面談の場所と、誰が参加者に連絡するか(名簿の利用)。 | 特定商取引法(営業所等以外の場所での契約など)、個人情報保護法 |
| 電話・オンラインでの個別の誘い | 電話をかけて勧誘する、または相手に電話をかけさせて勧誘する。 | 電話番号をどう取得したか。再勧誘になっていないか。 | 特定商取引法(電話勧誘販売に当たる場合)、特定電子メール法(メールの場合) |
どの形でも共通するのは、参加者から見れば、主催者が呼んだ講師が勧めているという構図になりやすい点です。主催者が勧誘に直接関わっていなくても、「主催者が紹介した講師だから」と信頼して契約した参加者が、後で不満を持てば、苦情は主催者にも向かいます。契約書で勧誘の取扱いを決めておく理由は、法的な責任の分担だけでなく、参加者との関係を守るためでもあります。
主催者と講師の間で決める、勧誘に関する条件
契約書の書き方としては、まず、勧誘を禁じる選択があります。純粋に講演の内容で価値を提供してもらい、販売や勧誘は一切しないという取決めです。登壇の趣旨を明確に保ちたい場合や、参加者の多くが個人で、勧誘による苦情の危険を避けたい場合に適しています。
認める場合は、一括して「勧誘を認める」とは書かず、場所・時間・方法・対象・禁止事項を限定します。次の表は、条件を整理するときの例です。
勧誘を認める場合の条件の整理(書き方の例・一般的な例)
| 項目 | 認めるか | 条件の例 | 契約書に書くこと |
|---|---|---|---|
| 講演の中での自己紹介・サービスの名称の紹介 | 条件付き | 講演時間の一定の範囲内。内容の中心にしない | 時間の上限、講演の趣旨との関係 |
| 会場内での申込書の配布・その場での契約 | 許さない | 原則として認めない | 禁止する旨、例外を認める場合の書面承諾 |
| 会場内の別室・ブースでの個別相談 | 条件付き | 主催者が指定した場所と時間に限る | 場所・時間・参加者が自由に退席できること |
| 後日の面談の案内 | 条件付き | 参加者本人が希望した場合に限る。申込用紙や同意欄を設ける | 同意の取得方法、名簿の利用の範囲 |
| 電話・メールでの勧誘 | 条件付き | 本人の同意がある場合に限る。断られたら再度の勧誘をしない | 同意の記録、断った人への勧誘の禁止 |
| 主催者の名称・ロゴを使った勧誘 | 許さない | 認めない | 禁止する旨、誤認を生む表示の禁止 |
「条件付き」は、条件を満たす場合に限って認める趣旨です。何を認めるかは、主催者の判断で決めます。
認めた場合でも、守らせるべき最低限の事項があります。第一に、勧誘をする者の氏名または名称、勧誘の目的である旨、販売する商品や役務の種類を、勧誘に先立って相手に明らかにすること。第二に、契約を結ばない旨の意思を示した人に、重ねて勧誘しないこと。第三に、重要な事項について事実と異なることを告げないこと、将来の成果を断定的に告げないこと。第四に、返金やクーリング・オフに関する事項を、書面で正しく伝えることです。これらは、次の項で述べる特定商取引法や消費者契約法の定めに沿った内容です。
会場での勧誘は、訪問販売に当たる場合がある
特定商取引法の「訪問販売」は、二つの形を含みます。一つは、販売業者または役務提供事業者が、営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(営業所等)以外の場所において、契約の申込みを受け、または契約を締結して行う販売・役務の提供です(同法2条1項1号)。もう一つは、営業所等において、営業所等以外の場所で呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(特定顧客)から、契約の申込みを受けるなどして行う販売・役務の提供です(同項2号)。
セミナーの会場は、講師にとっては通常、自社の営業所ではありません。会場に集まった参加者に対し、その場で契約の申込みを受け、または契約を締結する形になれば、営業所等以外の場所での契約として、訪問販売に当たる可能性があります。当てはまるかどうかは、会場の位置づけ、勧誘の態様、契約の場所など、実際の事実で決まります。主催者として押さえておきたいのは、訪問販売に当たる場合の販売者側の義務が、重いことです。
会場の外で起きる勧誘にも注意が必要です。営業所等以外の場所で呼び止めて営業所等に同行させた場合のほか、電話や郵便、電子メールなど政令で定める方法で誘引した者が営業所等で契約する場合も、訪問販売に当たります(同法2条1項2号、特定商取引法施行令1条)。セミナーの後に、「特別なご案内」として講師の事務所へ呼び出し、そこで契約を結ばせる形(いわゆるアポイントメントセールス)は、契約の場所が講師の事務所であっても、この規律の確認が必要です。
訪問販売に当たる場合に、販売する側に課される主な規律
- 勧誘に先立って、氏名または名称、契約の締結について勧誘をする目的である旨、商品・権利・役務の種類を相手に明らかにする(特定商取引法3条)
- 契約を締結しない旨の意思を表示した者に対して、契約の締結について勧誘をしてはならない(同法3条の2第2項)
- 契約の申込みを受けたとき、契約を締結したときに、申込みの内容や契約の内容を記載した書面を交付する(同法4条、5条)
- 契約の締結について勧誘をするに際し、商品・役務の種類・内容、価格、支払の時期・方法、提供時期、申込みの撤回・解除に関する事項などについて、不実のことを告げてはならない(同法6条1項)
- 申込者等は、書面を受領した日から起算して8日を経過するまで、書面または電磁的記録により、申込みの撤回または契約の解除をすることができる。撤回等があった場合、事業者は損害賠償や違約金を請求できない(同法9条1項・3項)
ただし、これらの規律は、消費者を保護するための制度で、営業のために、または営業として締結する契約には適用されません(同法26条1項1号)。企業の担当者や個人事業主が、自らの事業のために購入する契約は、適用除外に当たる場合があります。セミナーの参加者が事業者だけなのか、個人の消費者を含むのかによって、当てはまる規律が変わります。
この制度との関係で、主催者が契約書に備えるべきことは、二つあります。一つは、勧誘する講師が、これらの義務を守る責任を負う旨を書くこと。もう一つは、会場でそのまま契約を結ぶ運営を認めるかどうかを、法的な負担も踏まえて決めることです。会場内での契約を原則として認めず、後日の落ち着いた場で、書面で説明したうえで契約する運営を選べば、参加者にとっても、主催者にとっても、後日の争いの余地が小さくなります。
電話・オンライン面談での個別の勧誘と、消費者契約法の取消し
セミナーの後に、電話で個別相談の案内をし、そこで商品やサービスの契約へ進む流れもあります。特定商取引法の「電話勧誘販売」は、販売業者または役務提供事業者が、電話をかけ、または政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う契約の締結についての勧誘により、相手方から契約の申込みを郵便等により受けるなどして行う販売・役務の提供です(同法2条3項)。電話勧誘販売にも、氏名等の明示(同法16条)、契約を締結しない旨を示した者への再勧誘の禁止(同法17条)、申込みの内容を記載した書面の交付(同法18条)、申込みの撤回等(同法24条)などの規律があります。撤回等の期間は、書面を受領した日から起算して8日です(同条1項)。
オンライン面談が電話勧誘販売に当たるかは、通信の方法や実際の流れによって評価が分かれ得るため、このページでは断定しません。ただ、実務の確認として、音声通話を使って勧誘し、その後に申込みを受ける運営は、電話勧誘販売の枠組みで点検しておくのが安全です。
特定商取引法のほかに、個人の参加者が相手の場合は、消費者契約法による取消しも関わります。事業者が消費者契約の締結について勧誘するに際し、重要事項について事実と異なることを告げ、消費者がその内容が事実であると誤認して申込みをしたとき(同法4条1項1号)、将来における変動が不確実な事項について断定的判断を提供し、消費者がその内容が確実であると誤認したとき(同項2号)は、申込みの意思表示を取り消すことができます。また、事業者が、消費者がその勧誘をしている場所から退去する旨の意思を示したのに退去させない場合なども、困惑による取消しの対象になります(同条3項2号)。セミナーの熱気のなかで「今日申し込めば特別価格」と迫り、帰ろうとする参加者を引き留める運営は、この典型的な危険を含みます。
会場での勧誘では、さらに二つの取消事由にも注意が必要です。一つは、勧誘をすることを告げずに、消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、その場所に同行して勧誘する場合です(同条3項3号)。会場から別室や別の場所へ誘導して勧誘を始める運営が、これに当たらないかを確かめます。もう一つは、勧誘を受けている場所で、消費者が契約するか否かを相談するために電話などで事業者以外の者に連絡する意思を示したのに、威迫する言動を交えて連絡を妨げる場合です(同項4号)。家族や知人に相談したいという参加者を、その場で急かして止めることは避けます。
確認の問いと理由勧誘を認める前に、主催者が確認する問い
講師が勧める商品・サービスは何か。参加者の誰を対象とするか。
個人の消費者を含むか、事業者のみかで、適用される規律が変わります。
会場内で契約まで進める運営を認めるか。
認めると、訪問販売の規律や、消費者契約法の取消しの問題が生じる場面が増えます。
参加者が退席しやすい運営か。
退去の意思を示した人を引き留めると、困惑による取消しの対象になり得ます。
勧誘のために、参加者の連絡先をどう取得するか。
個人情報の利用目的や、特定電子メール法の同意が問題になります。
断った人への再勧誘を、どう防ぐか。
再勧誘の禁止は、特定商取引法にも定められています。断った人の記録を講師が残す運営が必要です。
苦情や返金の窓口を、誰にするか。
参加者が主催者に連絡してくる場合を想定して、窓口と対応の順序を決めておきます。
回答に応じて、勧誘を禁じる、条件付きで認める、のいずれかの条文を選びます。
手数料・紹介料、苦情と返金の帰属、主催者の名称の使用を契約書に書く
勧誘を認めると、金銭と責任の整理が必要になります。まず、手数料・紹介料です。講師が獲得した契約について、主催者に紹介料を支払う、または、主催者が会場の提供や集客の対価として手数料を受けるという取決めをする場合があります。このとき、算定の基準(契約の成立時か、入金の時か)、返金があったときの戻し、支払の時期を決めます。紹介料の定めがあると、主催者が勧誘の当事者であるかのように見られる危険もあるため、販売の主体は講師であること、契約の当事者は講師と参加者であることを明確に書きます。また、紹介する商品・役務の業種によっては登録や許可が必要な場合があり、主催者が講師から参加者への契約の媒介を委託された立場になると、受託者の不当な勧誘にも消費者の取消権が及びます(消費者契約法5条)。
次に、苦情と返金です。講師が販売した商品・サービスについて、参加者から苦情や返金の求めがあった場合は、販売した講師が対応し、費用を負担するのが原則です。主催者に連絡が来たときは、主催者は取り次ぐだけで、判断や責任を負わない旨を書いておきます。逆に、主催者が受けた苦情を放置すると、参加者との関係が悪化します。講師に取り次ぐ期限と、対応の報告を求める条項を置くと、実際の運営がうまくいきます。
勧誘に関する責任の分担(整理の例)
販売する商品・サービスの内容の説明講師
契約の当事者として、事実と異なることを告げないこと、断定的な説明をしないこと。
特定商取引法上の書面の交付、撤回等への対応講師
販売業者・役務提供事業者として、法律上の義務を負います。
参加者からの苦情の受付主催者(取次ぎ)
受けた苦情を講師に速やかに取り次ぎ、対応の状況を確認します。
返金・損害賠償講師
販売の当事者として負担します。主催者に請求が及んだ場合は、講師に求償できる旨を書きます。
会場内の運営、参加者の安全主催者
勧誘が行われる時間・場所の指定、退席しやすい運営の確保。
主催者の名称・ロゴの使用講師は使えない
主催者の許可なく、勧誘や宣伝に使わない。誤認を生む表示を禁止します。
条文例セミナー後の勧誘に関する条項(書き方の例・一般的な例)
- 乙(講師)は、甲(主催者)の書面(電磁的方法を含む。)による事前の承諾なく、本セミナーの会場内およびその前後において、乙または第三者の商品、役務、権利の販売、申込みの受付、契約の締結その他これらに類する勧誘を行ってはならない。
- 甲が前項の承諾をする場合、乙は、甲の指定する場所および時間の範囲内で、勧誘の相手方が自由に退席できる状態を確保して行うものとし、相手方が契約を締結しない旨の意思を示したときは、再度の勧誘をしてはならない。
- 乙は、勧誘に際し、特定商取引法、消費者契約法その他の法令を遵守し、重要な事項について事実と異なる説明をし、または成果を断定する説明をしてはならない。
- 乙は、勧誘において、甲の名称、ロゴその他甲を表示するものを、甲の書面による承諾なく使用してはならず、甲が乙の販売する商品・役務の販売者または推奨者であるかのような誤解を相手方に与える表示をしてはならない。
- 乙が行った勧誘または販売に関する苦情、返金の求め、損害賠償の請求その他の紛争は、乙の責任と費用で処理する。甲が当該苦情等を受けたときは、速やかに乙に通知し、乙は処理の状況を甲に報告する。
- 乙の勧誘または販売により、甲が第三者から請求を受けたときは、乙は、甲に生じた損害を賠償する。
第1項の承諾をしない運営(勧誘の全面禁止)を選ぶ場合は、第2項以降を残さず、第1項に違反した場合の措置を加えます。紹介料を定める場合は、別の条で算定と支払を定めます。
勧められる商品・サービスの中身を、主催者が事前に把握する
勧誘を認める場合に、見落とされがちなのが、「何が勧められるのか」を主催者が事前に把握することです。講師が勧める商品や役務の種類によって、適用される規律も、参加者が受ける影響も変わるからです。把握していない商品が勧められ、参加者が被害を訴えれば、主催者は「知らなかった」では済ませにくくなります。
事前に確認しておきたいのは、次の点です。販売される商品・役務の種類と内容。価格と支払の方法(一括か分割か、前払いか後払いか)。契約の期間と中途解約の扱い。成果や効果をうたう場合、その根拠。勧誘に使う資料や動画の内容。勧誘を担当する者が講師本人か、他の者か。一部の役務や契約の形態には、特別な法律の定めがあり、販売する側に許可や届出が必要な場合もあります。それらは販売する側の責任で適法に行うべきものですから、契約書に、講師が販売する商品・役務について、必要な許認可を有していること、法令を守ることを表明・保証する条項を置いておきます。主催者がその適否を判断するのではなく、講師から表明を受け、疑義があるものは勧誘を認めない、という線引きが、実務的です。
勧められる商品・役務の中に、「人を紹介すれば報酬が得られる」「この商品を使えば仕事を得られる」といった収益の話が含まれている場合は、とくに注意します。紹介を重ねて組織を広げる形の取引は連鎖販売取引(特定商取引法33条)、仕事の提供を条件に商品の購入や費用の負担を求める取引は業務提供誘引販売取引(同法51条)に当たることがあります。これらは、書面を受け取った日から20日の間、クーリング・オフができ(同法40条・58条)、訪問販売などの8日より長くなっています。収益の話を伴う勧誘は認めない、と決めておくのも一つの線引きです。
また、勧誘のなかで「今日だけの特典」「先着の特別価格」などの表現が使われることがあります。これらの表示は、景品表示法5条2号の有利誤認の観点から、実際の取引条件と一致していなければなりません。実際には常に同じ価格で提供しているのに、その場限りの価格のように見せる説明は、参加者の判断を誤らせます。勧誘に使う資料は、主催者が事前に確認できる形にし、主催者の名義が出る場合は特に、内容を把握しておきます。
講師が勧める商品・サービスについて、事前に確認する項目
- 販売される商品・役務の種類と、その内容の概要
- 価格、支払の方法と時期、分割払いの有無
- 契約の期間、中途解約・返金の条件、クーリング・オフの有無
- 成果や効果をうたう場合の根拠と、表示の言い方
- 必要な許認可や届出がある場合、それを有していること
- 勧誘を担当する者と、勧誘の場所・時間・方法
- 苦情・返金の窓口と、対応の体制
これらを講師に書面で提出してもらう運営は、主催者にとって負担に見えるかもしれません。しかし、参加者への責任を果たすための最低限の確認であり、確認できないものは勧誘を認めない、という判断の根拠にもなります。
起きがちなこと
契約書作成の実務の経験をもとに、セミナー後の勧誘にまつわる場面で起きがちなことをまとめます。多くの契約書で見られる傾向として、講師への登壇依頼書には、勧誘に関する定めがそもそも入っていない例が目立ちます。
セミナー後の勧誘で起きがちなこと
- 登壇依頼書に勧誘の定めがなかったため、講師が会場内で申込書を配り、その場で契約を取り付けた。主催者は事後に知った。
- 講師が「主催者のお墨付き」であるかのように説明して勧誘し、後日、参加者から主催者に苦情が来た。
- 会場の使用条件が勧誘を禁じていたのに、主催者が講師に伝えておらず、会場から注意を受けた。
- 参加者が帰ろうとしても引き留められたという苦情が寄せられた。会場には他の参加者もおり、運営全体の評判が下がった。
- 返金の求めが主催者に集中したが、契約書に窓口や取次ぎの定めがなく、講師の対応が遅れた。
- 紹介料の定めだけがあり、返金があった場合の戻しが書かれておらず、精算の食い違いが生じた。
勧誘の定めは、講師にとっても、自分の活動の範囲が明確になる点で役に立ちます。主催者は、参加者に提供する価値と、運営の信頼を守る観点から、禁じるか、条件を付けて認めるかを、開催前に決めておきます。うまくいかなかったときの整理は、セミナー・講演でうまくいかなかったとき/よくある質問のページに置いています。参加規約の側で、会場での勧誘行為を禁じる書き方は単発セミナーの参加規約と申込みの条件のページで扱っています。
よくあるご質問
セミナーの後で講師が自分の商品を勧めることを、禁止できますか。
主催者と講師の契約書で、主催者の書面による事前の承諾がない勧誘を禁じる条項を置くことができます。登壇の趣旨を講演の内容に絞りたい場合は、全面的に禁止し、違反に対する措置(中止の求め、今後の登壇の見直しなど)を添えるのが分かりやすい書き方です。認める場合は、場所・時間・方法・対象を限り、主催者の名称を使わせない条件を付けます。
会場でその場で契約するのは、特定商取引法の対象になりますか。
会場が講師の営業所等に当たらない場合、営業所等以外の場所での契約の申込みを受けて行う役務の提供として、訪問販売に当たる可能性があります(特定商取引法2条1項1号)。当たるかどうかは、会場の位置づけや勧誘の態様など実際の事実で決まります。当たる場合は、氏名等の明示(同法3条)、再勧誘の禁止(同法3条の2第2項)、書面の交付(同法4条・5条)、8日間の申込みの撤回等(同法9条)などの規律があります。ただし、営業のために、または営業として締結する契約には適用されません(同法26条1項1号)。
参加者から返金を求められたとき、誰が対応しますか。
講師が販売した商品やサービスについては、販売の当事者である講師が対応し、費用を負担するのが原則です。主催者に連絡が来たときは、取り次ぐ立場にとどまる旨と、講師が速やかに対応して報告する旨を、契約書に書いておきます。主催者が請求を受けた場合に、講師に求償できる旨も定めておくと、精算が進めやすくなります。
講師が主催者の名前を出して勧誘してしまいました。どう対応しますか。
契約書に、主催者の名称やロゴを無断で使うことの禁止と、主催者が販売者や推奨者であるかのような誤解を与える表示の禁止を書いておけば、中止と訂正を求める根拠になります。参加者に誤解が生じている場合は、主催者が販売に関与していないことを、速やかに参加者に知らせる対応が必要になります。
勧誘で紹介料を受け取ってもよいですか。
紹介料を受け取る取決めは置けますが、契約書に書けば当然に可能になるわけではありません。紹介する商品や役務の業種によっては、登録や許可が必要な場合があります。また、主催者が講師から参加者への契約の媒介を委託された立場になると、受託者が不当な勧誘をしたときにも、消費者の取消権が及びます(消費者契約法5条)。紹介料を定めるときは、算定の基準、返金があったときの戻し、支払の時期を決めておく必要があります。また、紹介料を受けると、主催者が勧誘に関わっているかのように見られやすくなるため、販売の主体は講師であり、契約の当事者は講師と参加者であることを、契約書にも参加者への説明にも明確にしておきます。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、契約の内容や催しの仕組みによって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、契約書作成の実務でよく見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会 / 公正取引委員会