セミナーや講演会は、主催者が場と参加者を用意し、講師が話すという単純な形に見えて、決めていないことが多く残ります。講師料はいつ誰がどう払うのか、スライドや配布資料の権利は誰のものか、録画や配信をしてよいのか、講師が体調を崩して出られなくなったらどうなるのか、参加者の名簿を講師が使ってよいのか、といった点です。このガイドでは、講演・登壇の依頼書、講師料と旅費、資料の著作権、録画・配信・アーカイブの許諾、講師の辞退と代役、会場とウェビナーの条件、共催と協賛、受講者名簿の扱い、告知文の書き方、セミナー後の販売への誘導、トラブルになったときの整理までを、条文と一般的な書き方に沿って整理しています。1回から数回の催しで、人を呼んで話してもらう主催者の方と、登壇を頼まれた講師の方が、契約書や依頼書を整える前に押さえておきたい点をまとめました。

セミナーや講演会を企画する方

講師が参加者の前で話している様子

開催前・開催中・開催後に分けて、約束を整理する

セミナーや講演会では、講師との依頼、会場、共催者、参加者への案内と、いくつもの約束が同時に動きます。どの書類で何を決めるのか、食い違ったらどれが優先するのかを、開催前・開催中・開催後の順に整理します。

1回きりの催しと、継続して教える講座とでは、必要な書類が変わります。単発〜数回の催しに絞って、決めずに開催しやすい項目を洗い出します。

登壇を依頼する方・頼まれた方

依頼内容を書き込んでいる書類と筆記具

登壇の依頼書と、講師料・旅費の決め方

知人や同業から頼まれた登壇でも、題目・対象者・時間・質疑・会場またはURL・謝礼・旅費・資料の提出期限は、書面かメールで残しておくと後から確認できます。時間を提供するのか、資料という成果物を納めるのかも整理します。

講師料は、定額、参加人数に連動する額、売上の分配の三つの型に分かれます。支払期日、旅費や機材の費用、中止のときの扱い、無償の登壇で求められる範囲まで決めます。

資料・録画・配信の権利を整理したい方

資料と著作権を表したイメージ

スライド・配布資料・録画の許諾の範囲

講師のスライドや配布資料は講師の著作物です。主催者が使えるのは、許諾された範囲だけです。「すべての権利を移転する」と書く場合は、特別の記載が必要な権利があり、既存の資料の扱いも決めます。

会場の録画、ライブ配信、アーカイブ、広告用の抜粋は、それぞれ講師の許諾が要る使い方です。範囲・期間・有償化・削除の要請への対応を書き分けます。

直前の辞退・中止が心配な方

予定表の日付に印を付けている様子

講師の辞退と代役、主催者側の中止での講師料

講師が体調を崩した、災害で移動できない、という事態に備えて、辞退の事由、代役や録画での代替、日程変更の優先順位と、協議の期限を決めておきます。

主催者の側で中止にしたときは、準備済みの資料作成費や手配済みの移動の費用を、どちらがどこまで負担するのかが問題になります。通知の方法と時期もあわせて決めます。

共催・協賛で開催する方

確認項目に印を付けているチェックリスト

費用の分担、登壇枠、協賛の表示、名簿の扱い

他社と共催するときは、会場費・広告費・講師料・配信費の分担、参加費や協賛金の帰属、登壇者の選定、共催者の紹介枠の長さを決めます。協賛企業の宣伝であることが分かる表示にする点も確認します。

参加者の名簿やアンケートを講師・共催者が営業に使ってよいかは、個人情報の取得の目的と、渡し方の整理が前提になります。

告知・参加規約・セミナー後の販売を整えたい方

告知文の表示を確認している様子

講師の経歴の確認、参加規約、終了後の勧誘

講師の経歴・資格・実績、受講者の声、「必ず」といった断定は、告知に載せる前に事実を確認します。参加費・特典・定員・期限の表示も、実際の内容と合わせます。

セミナーの後に講師が個別相談や商品を勧めたいときは、勧誘を許すか禁じるか、許す場合の条件、クレームと返金の帰属を主催者と講師のあいだで決めます。単発の参加規約では、キャンセル・録音の禁止・内容変更の区分を整えます。

このガイドの解説ページ

よくあるご質問

講演や登壇の依頼は、口約束やメールだけでも成り立ちますか?

契約は書面がなくても成立しますが(民法522条2項)、題目・時間・場所またはURL・謝礼・旅費・資料の提出期限などが曖昧なまま進むと、開催の直前や終了後に言い分が食い違います。依頼書を作るか、メールで条件を確認して残しておきます。講師が個人事業者で、主催者が従業員を使う事業者である場合などには、取引条件を書面または電磁的方法で明示することが法律上求められることもあります。

講師が作ったスライドを、主催者が配布したり再利用したりしてよいですか?

講師が作ったスライドや配布資料は、講師の著作物です。主催者が使えるのは、講師が許諾した範囲、つまり利用の方法と条件の範囲に限られます(著作権法63条)。再配布や他の講師への使用などを予定するなら、依頼書にその範囲を書いておきます。「すべての権利を移転する」と書く場合には、翻案などの権利について特別の記載が必要になります。

セミナーを録画してアーカイブとして販売する場合、講師の許諾は必要ですか?

講演は言語の著作物にあたり、録音・録画は複製、配信は公衆送信にあたるため、講師の許諾が必要です。さらに、講師の話しぶりは実演として保護されることがあります。ライブ配信だけなのか、見逃し配信、アーカイブの販売、広告用の抜粋までなのかを分けて、期間と追加の報酬も含めて書いておきます。

参加者の名簿を、講師や共催者に渡してよいですか?

名簿は、主催者が参加者から取得した個人情報です。取得したときの利用目的の範囲で使うのが原則で、講師や共催者に渡すことが第三者提供にあたるのか、業務委託や共同利用の整理に収まるのかで、必要な手続が変わります(個人情報保護法27条)。営業のメールに使う場合は、別に同意が必要になることがあります。渡す範囲と、終了後の消去や返却を契約に書いておきます。

講師が直前に出られなくなったとき、講師料はどうなりますか?

契約に書いていなければ、事情ごとに民法の債務不履行や危険負担の規定で判断することになり、結論が見通しにくくなります。やむを得ない事情と自己都合を分け、代役や録画での代替、日程変更の優先順位、講師料の扱い、通知の方法と時期を、依頼書に書いておくと、双方の見通しが立ちます。

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監修:アトラス行政書士法人(代表社員 荒木素子・特定行政書士) 最終確認日:2026年10月15日